株式会社設立の流れ
株式会社を作るって難しいようですが、頑張れば自分で出来ないこともありません。
ただ、面倒ですし時間も手間もかかるので、今なら行政書士などの専門家に依頼する方がメリットが多い場合もあります。
ですが、どうやって設立するか知らないと、自分でやったほうがいいのか、任せたほうがいいのか、判断がつかないと思いますので、ここでまとめておきます。
設立の流れ
説明するのにも、どういった会社を設立するのか分からないのでは、面倒さも分からないので、以下の条件で株式会社を設立することにしましょう。
- 設立するのはIT系の株式会社
- 発起人(設立する人)は自分一人(発起設立)
- 資本金は手持ちの現金100万円
- 資金を出してくれる人はいないけど、設立後に働いてくれる人はいる
と、こんな条件で会社を作ってみます。
発起人を決める
今回は発起人である自分だけで株式会社を作るので、決めるようなことはありません。
ですが、一緒に会社を作る人が他にいる場合は、誰が発起人となるのか決めておく必要があります。
発起人は、一人以上であればいいのですが、必ず出資しなければなりません。
定款の絶対事項を決める
株式会社の設立の際には、定款が必要になります。
定款と言うのは、会社の基本的な決めごとをまとめたもので、「会社の憲法」とも言われます。
法律のように、いくつかの条文で構成されていて、その中には
- 必ず決めなればいけないこと(絶対的記載事項)
- 決めれば有効になること(相対的記載事項)
- 定款に入れなくても他の方法でも大丈夫なこと(任意的記載事項)
の3種類の条文があります。
最低限、絶対的記載事項だけは決めなくては、定款として認められません。
商号
会社の名前です。
株式会社であれば、必ず「株式会社」の文字を入れなければいけません。
通常は、前か後ろにつけます。これを「まえかぶ」「あとかぶ」と言いますが、正式名称ではありません。あくまでもそう言われるというだけです。
ちなみに、前後だけではなく真ん中に入れる(ミー株式会社ミルのように)こともできるらしいですが、パッと見変な感じがするので、止めたほうがいいと思います。
会社名は、同一場所で同じ社名でなければ、どんな名前でも付けられますが、法律によって規制されている名前(例えば、銀行ではないのにXXX銀行とつけるとか)はつけられません。
さらに、近隣に似たような社名があると間違えられることもあるので、近くに似たような名前の会社が無いか調べておくといいでしょう。
所在地
会社(本店)の場所です。
実際に、会社があるかどうかはあまり関係ありませんし、定款に記載するのは最小行政区(市区町村)までですので、特定の住所ではありません。
ただ、登記の際には、きちんとした住所で登記しますが、この時も実際にオフィスがあるかは関係無いです。なので、登記上の住所と言うこともあります。
社長の自宅を本店所在地にしておいて、実際のオフィスは別にあるということは、小規模な会社ではよくあることです。
こうしておくと、オフィスが移転するたびに、登記をし直す(=コストがかかる)必要が無いので便利ですが、登記されている本店所在地に書類を送るという役所や銀行もあるので、郵便物のやり取りが面倒なこともあります。
目的
その会社が何をするかを箇条書きで記載します。
今回はIT会社ということで、コンピュータシステムの開発とネットを利用したサービス開発を行う会社としましょう。
この場合、例えば、こんな感じの目的が並ぶことになります。もちろん、これだけでは無いですし、IT会社の定款だからと言って、IT以外の事が入ってはいけないわけではありません。
- コンピュータシステムの企画、開発、販売及び保守に関する業務
- インターネット、その他通信システムを利用したデジタルコンテンツ及び情報技術に関する商品とサービス等の企画、開発、制作、運営及びコンサルティング
- インターネット上のショッピングモールの企画、製作、運営及びコンサルティング
- コンピュータ及びインターネットに関連した技術者の派遣、紹介及び育成
- ITに関する教育事業及び出版事業
- ITに関する研修、セミナー及び講演会の企画、運営及び実施
- 前各号に付帯関連する一切の事業
こんな感じで目的を考えます。
最後に「前各号に付帯関連する一切の事業」と付け加えるのも忘れないようにしてください。
これがあれば、明確に定款に書かれていなくても、事業目的を広い範囲で解釈することが可能となるので、ビジネスに幅が出来ます。
会社の設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
会社設立の時に、いくら用意するかということです。
この金額がイコール設立時の資本金ですし、まずこの金額で始めて出資者を募って資本金を増やしていくということもあります。
今回は、手持ちの現金100万円で始めるので、100万ということになります。
発起人の氏名または名称および住所
発起人の氏名、住所を記載します。
今回は発起人であるあなたの名前と住所を記載します。
ここで、「名称」となっているのは、発起人は法人(他の会社)でもいいからです。どこかの会社に出資してもらって発起人となってもらう場合には、会社名を記載します。
発行可能株式総数
これは定款の絶対的記載事項では無いのですが、実務上設立時の定款(原始定款と言います)に書かなかった場合、後から定款に追加しないといけないことになっているので、通常はそんな面倒なことをしないために、最初から記載しておきます。
この発行可能株式総数まで、資本金を増やすことができます。
定款のそのほかの事項を決める
絶対的記載事項があればいいのかというと、実際上はそれだけでは意味を成しません。
絶対的記載事項以外に
- 株券の不発行
- 株式の譲渡制限
- 基準日
- 株主の氏名の届出
- 株主総会(召集時期、招集権者、招集通知、議長、決議の方法、議事録)
- 取締役(数、資格、代表取締役、選任方法、任期)
- 決算期(事業年度、最初の事業年度、配当)
- 設立時取締役
などの事項を決めて定款に記載します。
この辺りは、書籍やネットで調べてもサンプルが見つかりますので、それを参考にしてもいいでしょう。
ただ、それがすべてとは限らないし、作りたい会社にマッチしているかも分からないので、行政書士などの専門家を頼るのがいいと思います。
定款の認証
定款は自分で作ることもできます。
その場合は、パソコンで文章を作り印刷して袋綴じを行って定款にします。
あるいは、行政書士などの専門家に依頼して、電子定款を作成します。
電子定款は、パソコンで作った文書をPDFにして、そこに行政書士などの作成者が電子署名(PDFに特別なデジタルデータを埋め込むこと)をしたものです。
PDFにしたり電子署名をするには機材が必要なので、個人で行うのはちょっともったいないかなと思いますので、行政書士に依頼してください。(もちろん、当事務所でもOKです)
電子署名にするメリットは、株式会社設立にかかる費用が4万円ほど安くなるからです。
具体的には、定款に貼る印紙が不要になるので、その分が要らなくなります。
ですから、定款の作成を他に依頼するという方は多くなっています。
他に依頼する場合は、ミーミル行政書士事務所のように電子定款に対応しているところを選んでください。
定款が出来たら、公証人に認証してもらいます。
認証とは、公証役場で公証人という第三者に定款として間違いがないことを認めてもらうことです。
株式会社の場合は、認証を受けた定款が無いと会社の設立が出来ません。
認証は、本店所在地を管轄する公証役場の公証人にお願いします。
印鑑を作る
認証が終わったら、法務局で登記を行うのですが、登記の際には、会社の実印を登録します。
ですから、登記の前に印鑑を用意します。
- 代表者印(代表取締役の印)=会社の実印
- 銀行印(銀行口座の印)
- 角印(会社の認印)
代表者印と銀行印は同じでも大丈夫ですが、3種類用意するのが一般的です。
文字(フォント)や材質、大きさに決まりはありませんので、好きなもので作って大丈夫です。
また、印鑑の文字も、代表者印であれば「株式会社XXX代表取締役之印」のようにするのが一般的ですが、例えば「代表取締役田中一郎之印」のようなものでも支障ありません。
まぁ、この場合は、社長が変わったら印鑑も変えないと混乱するので不便ですけどね。
出資金の払い込み
発起人や出資者から出資金の払い込みをしてもらいます。
まだ会社は設立できていないので、会社の銀行口座は作れません。
そこで、発起人の個人口座に振り込んでもらいます。
今回は手持ち現金を出資金としますので、それを銀行口座に振り込みます。(預入では誰が入金したのか分からないからダメです)
発起人の口座に最初から出資金分の残高があっても、誰が振り込んだか分かるようにしなければならないので、一度引き出してから改めて自分の名前で振り込んでください。
登記書類の作成
法務局へ出す設立登記の申請書を作ります。
提出する書類は以下のようなものですが、設立する会社の規模や内容(取締役会があるかなど)によって、他の書類が必要になる場合があります。
書類は、自分で作ることもできますし、司法書士に依頼して作ってもらうこともできます。
- 株式会社設立登記申請書
- 定款
- 設立時代表取締役を選定したことを証する書面
- 設立時取締役(及び設立時監査役)の就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認証明書(住民票、マイナンバーカードのコピー、免許証のコピーなど)
- 払込みを証する書面(出資金が振り込まれた銀行口座の通帳のコピーなど)
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書
- 収入印紙貼付台紙
- 印鑑届書(会社実印の届出)
法務局へ提出
作成した書類と登録免許税分の印紙を収入印紙貼付台紙に貼って、本店所在地を管轄する法務局に提出します。
登録免許税は、資本金の額の1000分の7の額です。
ただし、この額が15万円に満たない場合は、15万円です。
申請日が会社設立の日になりますので、大安だとか気になる方は注意してください。
提出すれば会社が設立できるわけではありません。
提出した書類は、とりあえず受け付けてくれますが、その後内容のチェックが行われて、まずい点があれば訂正しなければなりません。
これを「補正」と言います。
補正がある場合は、法務局から申請書に記載された連絡先電話番号に連絡がきますので、その指示に従って訂正や書類の追加をしてください。
あるいは、法務局の窓口に「今日出した申請はXX日が補正です」のような案内が出ていたり、ホームページで案内されていますので、その日に法務局へ電話をかけて補正があるかどうか確認してください。
補正がない場合は、登記が行われて会社の設立が完了しています。
印鑑カードの取得
個人の実印を市区町村に登録した場合も「印鑑登録カード」が発行されますよね。
会社の場合も同じで、法務局から印鑑登録カードが発行されます。
登記申請を行った法務局で印鑑カード交付申請書を提出すれば、無料でカードを交付してもらえます。
これが無いと法人の印鑑証明が取れないですから、今後の手続きや融資などで大変不便です。
会社登記簿謄本の取得
会社を設立したら、税務署や市役所などへの届出が必要になってきます。
その際に、履歴事項全部証明書(謄本)が必要になるので、法務局で何部か取っておきましょう。
役所などへの届出
会社設立した後には役所などへの届出が必要になります。
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届(年金事務所)
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(年金事務所)
- 健康保険 被扶養者(異動)届(年金事務所)
- 法人設立届出書(税務署)
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(税務署)
- 青色申告の承認申請書(税務署)
- 源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書(税務署)
- 棚卸資産の評価方法の届出書(税務署)
- 減価償却資産の償却方法の届出書(税務署)
- 市区町村への法人設立届出書(各市区町村役場等)
ざっと、こういった書類の提出が必要になります。
自分でもできますし、税理士や社会保険労務士に依頼することもできます。
銀行口座の開設
上記は、役所関係ですが、銀行口座の開設もしなければなりません。
銀行口座の開設は、実際に目当ての銀行に行って話を聞いたほうがいいです。
事業目的の内容によってはかなり厳しいという話もあります。
例えば、風俗営業系は敬遠されるようです。
また、登記簿謄本に記載された事業目的が、あまりにも多く記載されていて、何をしている会社か分からないと判断されて断られるということもあるようです。
というように、比較的作りやすい銀行とハードルが高い銀行がありますので、近隣の銀行での口座開設が難しい場合は、差し当たり開設のしやすいネット銀行で口座開設しておくという方法もあります。
銀行口座が無いとビジネスが回りませんからね。
さてどうしようか
ここまで、株式会社設立の流れを見てきましたが、いかがでしたか?
結構やることがありますよね。
でも、自分で手続きをすることは、十分できます。
ただ、時間と手間がかかるだけです。
そこをどう考えるか。
コストを抑える代わりに自分の時間を使うか、それとも、自分の時間を節約する代わりに行政書士などに依頼してコストをかけるか。
その辺りは、資金的な余裕やビジネスのスピード感も関わってきますし、書類作成の得手不得手も関わってくるでしょう。
餅は餅屋という言葉もあります。
何が何でも自分でやればいいというわけではありません。
メリットデメリットを考えて、依頼すべきところは依頼して、自分がやるところは自分でやるというメリハリをつけることが重要だと思いますし、ビジネスを進めていくにもそういった視点が大事だと考えます。
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